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セルフコーチングによって得られる恩恵は計り知れません。
高いパフォーマンスを発揮できたり、スコトーマが外れて視野が広がったりと、眠っていた能力が開花するかのようにマインドが変化します。

脳は非常に汎用性の高いシステムであり、それ故に数えきれないほどの機能を持つことが可能です。
そして我々人間は脳が持つ機能を意志に基づいて制御・コントロールすることことができます。(おそらく、自分の脳機能を客観的に認識し明確な意志を持ってコントロールできる(脳機能に対するメタ認知能力がある)のは人間だけ。)

脳の機能をコントロールするといっても、その機能は無数にあります。セルフコーチングによってコントロールできるのはほんの一部に過ぎません。しかし、一部の機能変化は脳のシステム全体に影響を与えます。脳内システムは一つのゲシュタルトであるため、一部の変化が波紋のように全体に広がり、全体として整合性が維持されるようにバランス(平衡状態)を保ちます。

誰もが脳の機能をコントロールする能力を生得的に身につけています。しかし、機能の殆どはDNAや経験を元に無意識が制御していてます。意識的にコントロールできる機能は人によってバラバラですが、訓練次第で増やすことが可能です。

無意識が制御しているいくつか特定の機能を意識的にコントロールできるようになると、意志を物理的に体現することが可能になります。(コーチングでは「意志」のことを「ゴール」と呼び、「意志を物理的に体現する」ことを「ゴールを達成する」といいます。)意志を物理的に体現する手法を体系的にまとめたものがコーチング理論です。

この記事ではコーチング理論(意志を物理的に体現する手法)をより深く理解していただくために記述しています。ルー・タイスの書籍「アファメーション」や苫米地博士の書籍・動画などをすでにご覧になっていて、ある程度コーチング理論を理解している人向けとなっています。

コーチング理論は理解しているつもりだけど、上手く活用できないと言う方が多くいます。そういう方の特徴として、コーチング用語は知っているし理解しているけど、用語同士の関係性が曖昧になっていたりします。コーチングに関して細かい知識はあるのだけど、コーチングという理論体系をまとまりのあるゲシュタルトとして統合的に捉えられていないのです。コーチングに必要な道具(知識)が全て揃っていても、それらを繋ぐネットワーク(関係性)が構築されていないないと、コーチングというシステムは稼働しません。

以下、私がコーチング理論をどのような視点で捉えているか?を記述して行きます。コーチング理論は理解しているはずなのにいまいちセルフコーチングが上手くいかないという方にヒントとなる視点を提供するのが本記事の目的です。

サイバネティックス

サイバネティックスという概念を知っていますか?

知らなくても問題ありません。コーチング理論を学ぶ過程でサイバネティックスという概念を学ぶことはないからです。では、なぜ急にこの概念を持ち出してきたかというと、この概念を知っているだけでコーチング理論の理解度が上がると思ったからです。

サイバネティックス(人工頭脳学)とは、通信工学と制御工学を融合し、生物、機械などの系における制御と通信の問題を取り扱う総合的な学問分野です。(ノーバート・ウィーナーによって提唱された。)

ウィーナー自身は、「状況をコントロールする2つの変量A,Bがあり、一方(変量A)は制御可能で、他方(変量B)は制御不可能であるとし、変量Bの時系列データに基づいて変量Aの調整量を決め、それによって都合のよい状況をもたらすための方法がサイバネティックスである」と定義しています。

サイバネティックスの核心にあるのはフィードバック制御※1技術です。通信、制御、統計力学を中心とする一連の問題が、機械だろうが生体組織であろうが本質的に統一されうるものである、という広い意味をこめて「サイバネティックス」と造語されました。

※1.まず、入出力を持ち、入力に対してある操作を行ったものを出力とするシステム(系)を考える。この時、その出力が入力や操作に影響を与える仕組みがあるとき、これをフィードバックという。(簡単に要約すると、フィードバックとは与えられた一つの型通りに、あるものに運動を行わせようとするとき、その運動の原型と、実際に行われた運動との差をまた入力として使い、このような制御によってその運動を原型にさらに近づけるということ。)

生物も機械もある目的を達成するために構成されたシステムであり、そのシステムは目的達成のための行動をとりながら、絶えずその行動結果を予想あるいはフィードバックして次の行動を準備し、目的達成にとって最適な行動を行っていきます。つまり、生物も機械も外界から情報を集め、それを自らの行動に役だてるための特殊な装置を備えており、その装置は情報をその後の行動に役だつように新しい形に変換して取り入れ、それによって行動を外界に対して効果的に行うようにするのです。そして、実際に外界に対して行われた動作がまたその装置に情報をもたらします。こうして生物も機械も外界との関係に対応しながら目的達成のための最適行動をとるように自己制御しています。

「制御と通信理論の全領域」のうち、生物および鉱物におけるサイバネティックスを特にホメオスタシス(恒常性)※2と言います。コーチング理論の中核となるホメオスタシスという概念を理解するに当たって、その上位概念であるサイバネティックスを学ぶことでより俯瞰的にコーチング理論を理解することが可能になると言えます。

※2.生物および鉱物において、その内部環境を一定の状態に保ち続けようとする傾向のことをホメオスタシス(恒常性)という。コーチングで用いられるホメオスタシスは、主にサイバーホメオスタシス仮説(物理空間のみならず情報空間に対してもホメオスタシスが働くという説。)のことを指します。

コーチング理論におけるホメオスタシスは情報空間(仮想現実)におけるフィードバック制御のことです。「ゴール(臨場感の高い仮想現実)に近づく行動をとりながら、絶えずその行動結果をフィードバックし、ゴール達成にとって最適な行動をとるように、無意識が勝手に生体をコントロールする。」という人間の脳が持つ特殊な機能がコーチング理論を基礎として支えています。これをコーチング理論における公理※3と位置付けることであらゆる事象に対して適正な評価(コーチング理論に従っているか?反しているか?という評価)が可能になります。

※3.公理は、その他の命題を導きだすための前提として導入される最も基本的な仮定のことである。一つの形式体系における議論の前提として置かれる一連の公理の集まりを公理系 という 。公理を前提として演繹手続きによって導きだされる命題は定理とよばれる。

コーチング理論を実践しているのに上手く結果が出ないのは、公理から導き出された定理を間違った条件下であるにもかかわらずに活用しているからです。例えば、アファメーションは公理から導き出された定理にすぎません。定理である以上、ある限定的な状況においてのみ通用する公式です。その限定された状況に当てはまらないのなら、その公式(アファメーションを唱えることによってゴールを達成できる)は成り立ちません。(「a>oの時、y=axが成り立つ。」という公式が、a=o,a<0の時には活用することができないのと同じです。)

コーチング理論の中核となるホメオスタシスをしっかり定義し、コーチング理論における評価軸の最上位に置くことで体系的にコーチング理論を理解することができます。

サイバネティックスという概念を知っただけで、一つ上の抽象度からコーチング理論を俯瞰できたのではないでしょうか?

以下、サイバネティックスに関する書籍です。
左の書籍がロバート・ウィーナー博士の書籍「ウィーナー サイバネティックス――動物と機械における制御と通信 (岩波文庫)」です。右の書籍は、ウィーナー博士が提唱したサイバネティックスという概念を医学博士であるマクスウェル・マルツ博士が自己啓発にアレンジし「サイコ・サイバネティックス」という概念でまとめた書籍「自分を変える心の魔術―マルツ博士の「サイコ・サイバネティクス」」です。

どちらの書籍もコーチングという言葉は一切出てきません。しかしコーチングの本質的な部分をより深く解説している箇所や共通する箇所が見られます。こういった書籍を通してコーチングという概念を少し視点をずらした場所から俯瞰して見てみると、より理解が深まります。苫米地博士やルー・タイスのコーチング本を一通り読み終えた方はこれらの書籍にもチャレンジして見ると良いかと思います。

意識にとってのゴール・無意識にとってのゴール

もう一度言いますがコーチングにおける公理は、「ゴール(臨場感の高い仮想現実)に近づく行動をとりながら、絶えずその行動結果をフィードバックし、ゴール達成にとって最適な行動をとるように、無意識が勝手に生体をコントロールする。」というものです。

この公理の中で唯一、意識が介入できる部分があります。それはゴール(臨場感の高い仮想現実)の設定です。(ゴールの定義は色々ありますが、ここではひとまずゴールとは「臨場感の高い仮想現実」とします。)ゴール設定が重要だと言われるのは、臨場感の高い仮想現実を作り出すことだけが、唯一意識的に実行できることだからです。「ゴールに近づく行動」、「フィードバックし、最適な行動選択」、「生体コントロール」これらは殆どが無意識的に行われることです。(選択に関して意識の関与は3%程度で無97%は無意識で行われている。生体コントロールに関しては99%以上が無意識によるものだとすると、意識がそれらに与える影響は殆ど0%に近い。)

「現状の外側にゴールを設定するのだからそのゴールの臨場感が高いというのは矛盾している」と思われる方もいると思いますが、「なぜ現状の外側にゴールを設定する必要があるのか?」を理解していれば、ゴールが現状の外か内かはどっちでも良いということがわかります。現状の内側にゴールを設定することを否定するのは、自分以外の人間によって「その人間にとって都合の良い仮想現実」を設定させられている可能性が高いからです。そうでない場合は現状の内側にゴールを設定(現状維持)しても問題ありません。というよりは、現状の外側にゴールを設定する必要がある場合は極僅かです。生命維持や家族の安全など生体に関するゴールは基本的に現状の内側にあります。殆どのゴールは現状の内側にあるのですが、それをわざわざゴールと言わないだけです。

臨場感の高い仮想現実がその時点におけるゴールです。正しく表現するなら、無意識は臨場感の高い仮想現実をゴールと認識します。その仮想現実が現状維持を目指していたものであったとしても、無意識にとってはそれがゴールであり、常に無意識はそのゴールに近づくように動きます。(そういう状況に対して我々は「ホメオスタシスが働いているおかげで現状維持できている(してしまっている)」と言います。)そして無意識にとってのゴール(臨場感の高い仮想現実)は逆に意識にとっての現実(現状の延長線上にある未来も含む)となります。意識が強い意志を持って確信している世界のことを我々は現実と呼んでいます。(確信の度合いのことを臨場感と言います。)臨場感の高い仮想現実とは無意識の視点から見るとゴールであり、意識の視点から見ると現実なのです。視点によって一つの対象をゴールと呼ぶこともできれば現実と呼ぶこともできるということです。「無意識におけるゴール」と「意識におけるゴール」を区別してゴールという概念を理解しないと訳がわからなくなりますので注意してください。

「無意識にとってのゴール」が「意識にとっての現実」だとすると、「意識にとってのゴール」とはなんでしょうか?「意識にとってのゴール」とは単なる「妄想」のことです。「妄想」とは「もし〜だったらこんな人生を送りたい」と言った感じの「実現できない(する気がない)ことを前提に生み出された仮想現実」のことです。この仮想現実がふとしたきっかけで、実現可能であることに気づくことがあります。その瞬間、その仮想現実は「可能世界」(現状の延長線上の未来のうちの一つ)となります。人は複数の可能世界の中から、自我(重要性評価関数)に基づいて一つの仮想現実を選択します。選択された仮想現実が意識にとっての現実(無意識にとってのゴール)となります。

「意識的に可能世界を拡張し、複数の仮想現実の中から気に入ったものを選択すること」をゴール設定といいます。
また、ゴールが設定されるプロセスはもう一つあって、この場合は「強い意志や決断によってある妄想を選択すること。もしくは、ある妄想を根拠なく確信すること。」と定義できます。

前者の場合のゴール設定プロセスは以下の通りです。


1.沢山の「妄想(意識にとってのゴール)」を生み出す。
2.「妄想」を「可能世界」に昇華させる。
3.複数の「可能世界」の中から一つの「可能世界」を選び取る。(矛盾が生じないのなら複数の「可能世界」を統合した「新たな可能世界」選び取っても良い。また、「可能世界」を統合したときに矛盾が生じた場合はその「矛盾が生じている世界」を「妄想」の一つとしてストックしておくと良い。時間の流れによって、「矛盾が生じている世界」が可能世界に昇華される場合は十分にあり得る。)
4.選択された「可能世界」が無意識にゴール(臨場感の高い仮想現実)として認識される。また、その時意識は「可能世界」を「当然起こりうる現実」もしくは「必ず起こすと決めた現実」として認識している。

スコトーマを外す、抽象度・臨場感・エフィカシーを上げる、アファメーションを唱えるなど、セルフコーチングで推奨される技術の殆どは「妄想」を「可能世界」に昇華させるテクニックと言えます。

この手順を取らずとも、「妄想」から一気に「臨場感の高い仮想現実」を作り上げることも可能です。後者のゴール設定プロセスの場合は、「選択した臨場感の高い仮想現実が物理的現実(可能世界)として現れる」という流れになります。決断や強い意志は自我(重要性評価関数)を書き換えます。その結果スコトーマが外れてゴールまでの道筋が見えたりします。するとただの「妄想」が「可能世界」へと変化し、時間が経って物理的現実となります。

よく二項対立的に考えられがちですが(そもそもどちらか一方のプロセスしか認識していないという場合も多い)、どちらの手順も正しいセルフコーチングです。状況に応じて使い分ければ良くて、「なんの根拠がなくても「妄想」を確信できる」という時はそれで十分だし、「根拠がないと確信にまで至れない」という時は抽象度を上げてスコトーマを外したりしながら「妄想」を「可能世界」へと昇華してから確信すれば良いのです。

「決断」や「強い意志」、「根拠のない確信」といった臨場感の高い仮想現実を決定する技術は、妄想を可能世界に昇華させるセルフコーチング技術である「抽象思考」や「アファメーション」などと同列に並ぶ概念と言えます。

ゴール設定によって生まれる不満について

「ゴールが見つからない」「ゴールを更新したい」。そういう状況にいる間は、なんとも言えないモヤモヤ感に悩まされていることと思います。そういう人の多くはそれなりに現状に対して満足していて今の人生に特に不満はないけど、もっとスリルや充実感のようなものが欲しいと思っていることでしょう。もしくは遠い将来に対して漠然とした不安を抱えているということもあるかもしれません。

現状に対して満足しているという状態は、ワクワクするようなゴールを見つけられない人の典型的な特徴とも言えます。

逆に現状の外側にゴールを持っている人は現状に対して不満だらけです。どっちが幸福かはそれぞれの価値観によります。「今の状態が一生続いて欲しい」と思って現状維持を目指すのも幸せなことですし、「この世に生まれたからには色んなことにチャレンジして生きていきたい」と思って日々現状を変えていこうとするのも幸せなことだと思います。

現状の内側にゴールがある場合は現状に対して不満を感じません。現状維持がゴールそのものなのだから現状に満足してしまうのは当然です。現状自体に不満は感じませんが、現状を脅かす何かが現れたり、現状のコンフォートゾーンから外れたりすると不快感を感じます。その不快感は現状維持しようとするホメオスタシスそのものです。

現状の外側にゴールを設定できると、現状に対して不満が生じます。(現状の外側にゴールを設定することと、現状に不満を感じることは裏表の関係になります。)現状に満足しているはずなのに、ふとした時に空虚感を感じたりするのは、何らかの拍子で一時的に現状の外側にゴールが設定されるからです。現状の臨場感が大きくぶれて、その結果現状に不満が生じます。「このままの自分でいいのだろうか?」といった懐疑心は現状に対する確信が揺らいだからです。無意識はその不満を避けようとして不満の元となる原因を排除しようとします。その時、無意識が「現在の状況」を原因と感じるか、「現状の外側のゴール」を原因とするかはどちらに高い臨場感を抱き続けられるかによって決まります。「現状の外側のゴール」に高い臨場感を抱き続けられれば、現状の不満はますます強化され、現状から抜け出そうとする力が働きます。

この時、精神的苦痛を伴わないのはどちらかというと、「現在の状況」に高い臨場感を感じている方です。「現状の外側のゴール」を諦めるだけで不満が消えるのだから、抱えている不満は簡単に解決できます。それに対して、「現状の外側のゴール」に高い臨場感を感じていると、「現状の外側のゴール」が「現状の内側のゴール(可能世界)」に変化するまでの間、不満を感じ続けます。

何度も現状の外側のゴールを達成したことがある人や、エフィカシーを上げることができている人の場合は「私は現状の外側ゴールを達成できる人間だ」というセルフイメージを持っているため、ゴール設定によって生じた不満をマイナスと捉えることはありません。しかしこのセルフイメージが無い人にとっては、この時の不満という感情は苦痛でしかありません。

ゴールの達成方法が見つかると、「現状の外側のゴール」は「現状の内側のゴール」に変化します。逆に、達成方法が見つからないうちは現状に対して不満を感じ続けます。場合によっては恐怖や不安も感じるかもしれませんが、ここは抽象度を上げ論理的に思考しなければいけません。情動的になるとゴールの達成方法はなかなか見つけられません。情動的になっていると感じたときは、エフィカシーを上げてリラックスし、抽象思考が可能な意識状態を作りましょう。「意識的にゴールの達成方法を探す」という行為は、ゴールの臨場感を高める作用もあります。私の経験上、アファメーション以上にゴールの臨場感を上げてくれます。(あくまでも個人的な意見です。)

ゴールの達成方法が見つかり、ゴールが現状の内側に変化した後は、非常に充実した気持ちで過ごすことができます。ゴールが達成されるまでの間、ゴールに近づく喜びを日々感じながら過ごすことになるからです。

ここで一番重要な点は、ゴールの達成方法が見つかるまで「現状の外側のゴール」の臨場感を維持し続けることです。その時生じる現状に対する不満はそれほど問題ではありません。というよりはその不満は現状のコンフォートゾーンから脱出するためのエネルギーになるため、むしろプラスであると言えるのです。問題は不満から解放されるためにゴールを諦めてしまうこと。ゴールを諦めて不満から解放されるのではなく、思考の抽象度を上げて不満という問題を解決してゴールに向かわなければいけません。

「現状の外側のゴール」に高い臨場感を持ち続けることができれば、自我とコンフォートゾーンが変化するため、スコトーマが外れゴールに必要な情報が目に入るようになり、かつ、その情報を手に入れないと気が済まなくなります。コンフォートゾーンが変化するまで何とかして臨場感を保ち続けることがゴール設定の鍵となります。コンフォートゾーンさえ出来上がってしまえば、意識的に臨場感を上げたり、問題解決に取り組む必要も無くなります。ここまでくれば全て無意識が成し遂げてくれるからです。

生み出される無数の定理

妄想の実現方法が見つかると妄想は可能世界へと昇華します。妄想とは、固定観念にとらわれているがために柔軟な実現方法が見つからなかったり、単に知識が足りないために実現方法がわからなかったり、方法はわかっていても自分にはできないと諦めているといった理由で実現可能性が下がっている仮想現実のことです。

コーチング理論における定理の殆どは妄想を可能世界へ昇華させるために作られています。しかし「抽象度をあげる」「知識を得る」「コンフォートゾーンをずらす」「スコトーマを外す」「アファメーションを唱える」「エフィカシーを上げる」など、これらの定理は公理系において条件付きで成り立つ公式にすぎません。

そのため、条件から外れているときは、抽象度は下げたほうがいい時もあるし、知識はないほうがいい時もあります。コンフォートゾーンを固定したほうがいい時もあれば、スコトーマは増やした方がいい時もあるのです。

また、公理(「ゴール(臨場感の高い仮想現実)に近づく行動をとりながら、絶えずその行動結果をフィードバックし、ゴール達成にとって最適な行動をとるように、無意識が勝手に生体をコントロールする。」という脳の機能)に基づいて自ら定理を作り上げることも可能です。書籍等で紹介されている定理はもちろん効果的ですが、人それぞれ合う合わないがあります。公理を理解できているなら、自分の個性や環境を踏まえて自分なりのゴール設定方法を作り出すことをお勧めします。

何の疑いもなく信じていいのは公理のみです。他の定理は状況に応じて使い分けなければ、意識的にゴールを設定することはできません。意識がゴールを設定しない場合は、無意識が勝手にゴールを設定します。例えそのゴールを意識が嫌がっていたとしても設定されているゴールに向かって行ってしまうのが人間です。自由意志で選択的に人生を生きていくためにも人間は意識的にゴールを設定すべきです。

ホメオスタシスの力は強力です。意識的にゴール設定が可能になれば、つまりセルフコーチングができれば、ホメオスタシスは自分(意識)の味方になてくれます。

まずは、妄想を可能世界へ昇華させる方法(定理)を見つけることです。自分がどういう人間なのか、またどういう環境にいるのかによってその方法は変わってきます。「偏見を持ちやすい人」「抽象思考が苦手な人」「恐怖を感じやすい人」「ゆっくり考える時間を取れない人」、個性も環境も人それぞれ違います。当たり前すぎて逆に書かれていないことだと思いますが、自分の個性や環境を客観的に理解することもセルフコーチングの一環だと言えます。(あくまでも今現在の自分はいくらでも変化可能であることを前提に、今の自分の傾向や環境を分析してください。間違っても過去に縛られて悪いセルフイメージを強化してはいけません。悪いセルフイメージが見つかった場合は書き換えのチャンスです。見つけた瞬間から強い意志を持って良いセルフイメージに変えること決断しましょう。)

セルフトークの三段活用

セルフトーク(自らが発する言葉のこと(心の中で呟かれる言葉も含む))には仮想現実の段階に応じて大まかに3つの使い分けが行われています。それをセルフトークの3段活用と呼んでいます。

・願望や妄想といった仮想現実に対しては「〜したい」
・強い意志を持って決断した仮想現実に対しては「〜する」
・確信を持ってすでにそうなっていると思っている仮想現実に対しては「〜している」

セルフトークの語尾が「したい・する・している」のどれに当てはまっているかを観察することで、その時イメージしている仮想現実に対する意識状態が把握できます。

私はゴール設定をするにあたって最も重要なセルフコーチング技術はセルフトークのコントロールだと思っています。容姿や振る舞いなど物理抽象度のセルフイメージは主に視覚情報によって形成されていますが、性格や価値観、情緒、論理的思考傾向といったセルフイメージの大半は言語情報によって形成されています。

そのため、セルフトークを変えるということは、性格や価値観、情緒、論理的思考傾向といったセルフイメージを一瞬にして変えてしまうことを意味します。

セルフトークが変わることでセルフイメージが変わるのは、セルフトークはセルフイメージのそのものだからです。そのためセルフイメージを変えるにはセルフトークを変えるのが最も効果的だと言えます。

何より、セルフトークを変えるというのはとてつもなく簡単です。とっさに心に浮かんでしまう言葉の傾向を変えるには自我の書き換えが必要ですが、口に出す言葉は今この瞬間から誰でも簡単にコントロールすることができます。

実現させたい仮想現実に合ったセルフトークに書き換えてください。その際セルフトークの三段活用も注意して観察してみて下さい。

ゴールの抽象度と影響度

「ゴールの抽象度を上げろ」という言葉をよく聞きますが、ゴールにおける「抽象度」とは何を指すのでしょうか?

人によっては影響力の度合いのことを抽象度と呼んだりしています。例えば「家族を幸せにする」よりは「日本人を幸せにする」の方が抽象度が大きいということです。

これが一般的なゴールの抽象度に対する認識だと思いますが、私はこれを敢えて「抽象度」とは言わず「影響度」と呼んでいます。ゴールにおける「抽象度」はもっと別の形で定義した方が誤解なくゴールを理解できるからです。(ゴールの抽象度に関する定義が曖昧なので、この場で明確に定義しておこうと試みています。)

私はゴールにおける「抽象度」「包摂しているゴールの数の度合い」と定義しています。例えば、「数学のテストで100点を取る」より「5科目全教科で100点を取る」の方が抽象度が高いと言えます。前者は1個のゴールで形成されていますが、後者は5個のゴールで形成されていると考えるのです。ゴールを達成する過程で何個のゴールを達成する必要があるかによって抽象度の高低が決まるのです。

また、現状の外側のゴールにばかり注目されがちですが、このようにゴールの抽象度を定義することで、現状の内側のゴールについても注目する必要が出てきます。

先ほど、「数学のテストで100点を取る」は1個のゴールより「5科目全教科で100点を取る」は5個のゴールで形成されていると言いましたが、厳密には正しくありません。これに現状の内側のゴールを加えることで、より正確にゴールの抽象度が定まります。ゴールとは「現状の外側のゴール」と「現状の内側のゴール」の両方が達成されている状況のことを言います。つまり、現状の外側にゴールを増やしても現状の内側のゴールが同じ数だけ減少していれば、ゴールの抽象度に変化はないと言えます。(ゴールはそれぞれ性質が異なるため本来は比較できるものではないですが、ここでは1個のゴールは同等の重さを持つと考えます。)

たまに、現状に「安定した収入」というゴールが設定されているのにも関わらず、敢えてそのゴールを捨ててしまう人がいます。脱サラをする時に「安定を捨てる」なんてことを言ったりしますが、それは正しいゴール設定ができているとは言えません。(不安定な収入の方がスリルがあって人生を楽しめるといった人の場合は逆に正しいゴール設定と言えます。例えば、いろいろな関係を断ち切って「世捨て人になりたい」という人もいますし、ソフトバンクの孫さんみたいに「もし起業家でなければ貧乏な画家になりたかった」と言う人もいます。土台となる価値観が違えば正解は変わります。)大抵の人は安定した収入がないよりはあった方がいいはずです。ゴールを達成するために近道として、リスクをとって一次的に安定収入を捨てるというなら、それは単にゴールを達成する戦略なので問題ないのですが、そもそもゴールそのものに「安定した収入」というゴールが包摂されなくなるのはおかしいのです。

現状の外側にゴールを設定することは良いことですが、その際、現状の内側のゴールを切り捨てるのではなく、どちらのゴールも矛盾なく包摂できるような抽象度の高いゴールを設定すべきです。

なぜかゴールに内包されているhave toの正体

ゴールの抽象度は高ければ高いほど良いというわけではありません。抽象度が高いほうが良いには良いのですが、ゴールの数に合った抽象度というのがあります。

ゴールの抽象度は、ゴールの数に比例して高くなるものです。ゴールの数が少ないときはそれらを包摂するゴールの抽象度は低いままであるのが正常です。

ゴールの数を増やすことなくそれらを包摂するゴールの抽象度だけを上げてしまうとどうなるかというと、そのゴールはhave toを内包してしまいます。

年収300万円の人のお金のゴールが年収1000万円だった時、もっとお金のゴールの抽象度を上げようとして年収1億円のゴールにしようとしても、ゴール設定はできません。年収1000万円になることは可能ですが、それ以降は強制的にhave toを実行させられないかぎり年収1億円に近づくことはありません。

「現状の内側のゴール」と「現状の外側のゴール」を包摂したゴールの中にhave toが一切内包されていない状態で矛盾無く設定されているゴールの抽象度のことを私はゴールのLUB(Least Upper Bound)と呼んでいます。

ゴールに向かう過程でhave toが沢山ある場合は、そのゴールの抽象度が高すぎるということです。ゴールの抽象度をLUBの位置に向かって下げる必要があります。(一般的にゴールの抽象度を下げることは推奨されていませんが、論理的に考えるとこの場合は抽象度を下げるのが正しいと言えます。)

しかしながら、have toがゼロの状態(LUBの状態)は理想であり、現実的ではありません。上手くゴール設定ができたとしても少しはhave toが内在するものです。そしてそのhave toはゴール達成に必要な障害(小さなゴール)となります。ゴールによる引力have toによる斥力よりも強ければその障害は簡単に乗り超えていくことができます。

ゴールの抽象度を上げることは良いことですが、必ずその際生まれたhave toの斥力よりもゴールが持つ引力(want toの引力)の方が大きい必要があります。have toの斥力を減らすために一度上げたゴールの抽象度は必ず適切な抽象度にまで下げなければいけません。ゴールの引力に対してhave toの斥力が限りなく小さいとhave toの臨場感が殆ど無くなります。have toなのは変わらないのですが、単にゴールのためにやっていることなので、基本的に臨場感はゴールにあります。そのため本人はhave toだと気づくことなくいつの間にか障害を乗り越えてゴールに近づいています。

一時的に抽象度を上げることは簡単なことです。上げた抽象度を維持するには無意識の体感レベルにまで刷り込む必要があるのでなんらかの修行が必要かと思いますが、思考中だけ一時的に上げてゴール設定の時に再度抽象度を下げるのであればそんなに難しいことではありません。抽象思考が可能なIQ※4があれば、適度な抽象度にゴールを設定できます。

※4.Intelligence Quotient(知能指数、IQ)とは、数字で表した知能検査の結果の表示方式の一つである。単に知識量を指すこともあるが、特にコーチングにおけるIQとは抽象空間を自在にコントロールする力のことを指す。

人、猿、犬のグループを空(抽象度の最上位に当たる概念)で括るのは簡単です。生物で括ることもできますが、まだまだ無駄が多すぎます。哺乳類で括ったほうがより無駄が少なくなり抽象度を下げることができます。人、猿、犬以外のもののことを「無駄」と表現しましたが、ゴールの場合はこの「無駄」に当たる部分がhave to(ゴール達成に必要な障害)となります。もし人、猿、犬を「桃太郎に出てくる動物」というレベルまで抽象度を下げることができれば、その数は一気に少なく(他は雉と鬼くらい)なります。

LUBの抽象度にあるゴールとは複数のゴールが矛盾無く統合し、かつhave toを内包していない状態です。現在あるバラバラのピースを組み合わせて一つに統合する能力のことをゲシュタルト能力と言いますが、まずゴールというゲシュタルトを作ることがゴール設定の第一歩となります。そこからhave toを削るようにゴールの抽象度を下げていくのです。have toだらけでゴールの引力よりもhave toの斥力の方が強いゴールは絵に描いた餅です。(それはもはやゴールではありません)ゴールを物理的に実現させるためにゴールの抽象度を下げるというアプローチは間違いではないのです。

ただし、自我を書き換えることができればゴールの抽象度を保ちながらゴールを達成することができます。評価関数が書き変わればhave toがwant to(ゴール)に変わることがあるからです。(もちろんゴールがhave toに変わることもある。)自我の書き換えによって抽象度の高いゴールは維持するというアプローチもまた間違いではないのです。

「正しく見る」ということ〜「面倒臭い」が生まれるメカニズム〜

「面倒臭い」程度のhave toであれば対象を「正しく見る」というだけで簡単にhave toではなくすることができます。「面倒臭い」と感じる大抵の要因は、その対象を「ゴール達成に無関係なこと」と思っているからです。それは間違いです。全ての事象は複雑に関係し合い、何らかのつながりを持っています。そしてゴールと関係性の高いものは認識に上がり、関係性の低いものはスコトーマによって見えなくなります。認識に上がるということはそれはゴール達成に必要なことと言えます。

「面倒臭い」と感じる対象に向かって、「こんなことをしている暇はない」と思ってはいけません。どうしてもやらなければいけないということは、無意識が「ゴール達成に必要なことだ」と判断したからです。対象を正しく見ることができれば「これをこなせばまた一歩ゴールに近づく」と思えるはずです。

対象を正しく見ることができないのは、ゴールとの関係性を意識的に理解できていないからです。どうしてもやる必要のあることがhave toとして認識に上がるのは、無意識レベルではゴールとの関係性を理解しているのに意識では理解できていないという状態だからです。大抵のhave toは「ゴールに必要不可欠」であり、かつ「ゴールに不要」でもあるという矛盾を抱えています。対象をhave toと感じてしまうということは、対象の「ゴールに不要」の部分を高い臨場感を持って見ている、つまり、対象に対して「無駄に時間やエネルギーを浪費する」と強く感じてしまっているということです。

ゴールの臨場感が高ければ対象に対して「無駄」とは感じません。その代わり「無駄」と感じるのではなく、「ゴール達成に必要な超えるべき壁」として認識します。その壁を超えることはすごく楽しいことであるため、have toにはなり得ません。

つまり、ここでいう「正しく見る」とは、「ゴールの臨場感を維持した状態で対象を見る」ということになります。

人は時間やエネルギーを失うことを嫌います。本能的に嫌なこと(苦手な人、苦手な行為、痛みなどあらゆる嫌なこと)に直面した時に、扁桃体が発火し臨場感が抽象世界(ゴール)から物理世界(現状)に移行してしまうのは仕方のないことです。だからと言って、そのまま臨場感を物理世界(現状)に留めてしまってはいけません。すぐに抽象世界(ゴール)に臨場感を戻しましょう。

常にゴールの臨場感が維持できているか観察し続けてください。特に、リラックスができていない時、危険や嫌悪感を感じたりして扁桃体が活性化している時ほど要注意です。

自分のゴール・他人のゴール

「私のゴールも戦争と差別をなくすことです。」という人がいますが、「苫米地博士と同じこと言いたいだけじゃないの?」と感じてしまう人もちらほらいます。(苫米地博士は本当だと思います。博士のことは疑っておりません。)

というのも、ゴールは自分で設定することに意味があります。それはコーチング理論が主張していることです。苫米地博士のコーチングの書籍には大抵博士のゴールも記述されていますが、そこで博士が「戦争と差別をなくすことをゴールにしろ」と言っているわけではありません。「俺の(社会貢献の)ゴールは戦争と差別をなくすことだから皆んなもちょっと協力してね」くらいの主張です。あくまでもゴールは自分で作るということを忘れてはいけません。

自分の主要なゴール(臨場感の高い仮想現実)が他人と全く一致しているというのは何かおかしいです。たまたま「ゴールの抽象度を言語抽象度まで下げた時に同じ表現になった」ということはありますが、ゴールそのもの(イメージしている世界)が全く一致するというのは確率的にあり得ません。全く同じ自我が存在し得ないように全く同じゴールも存在し得ません。なかなかゴールが達成できない人は、自分でゴールを設定することを放棄して他人のゴールを借りている可能性がないか疑ってみると良いかと思います。

ただし、主要なゴールが一致することはあり得ませんが、それよりも抽象度の低い位置にあるゴールが一致するということはあり得ます。Aさんがイメージしている仮想現実とBさんがイメージしている仮想現実は全く別物ですが、どちらの仮想現実も「戦争と差別がない世界」という点で共通している場合があります。その場合は「戦争と差別をなくす」というゴールはお互い一致しているということになります。

他人のゴールを省き、自分に合ったゴールだけを抽出する方法があります。

ゴールには抽象度があるという話をしましたが、ゴールの抽象度の最上位に当たる部分を閉じることで、自分だけのゴールが抽出されます。情報の抽象度は下が矛盾で閉じられていて上は空で閉じていますが、ゴールの抽象度も同じように閉じるのです。ただし、ゴールの抽象度の場合は空では閉じません。

何で閉じるかというと、最も抽象度の高いゴールで閉じるのですが、そのゴールは自分が生み出すゴール全てを包摂するゴールです。そのゴールとは「死ぬ時に悔いが残らないように生きる」です。非常にシンプルなゴールですが、過去現在未来に自分が生み出すゴール全てを包摂しています。

「悔いが残らない」とは、「一度設定したゴール全てを達成する」ということではありません。納得した上でゴールを諦める(変更する)ことができた場合も悔いは残らないので、ゴールを達成できたかどうかは関係ないのです。つまり、「ゴールに対してどっちでも良い」と言える抽象度が、ゴールの抽象度の最上位に当たるということです。

このゴールはセルフコーチングの本質とも言えます。我々がセルフコーチングを学ぶのは、他人や社会に植え付けられた偽物のゴールに自分の人生を乗っ取られないためです。自分で自分の人生をコントロールするためにセルフコーチングを行い、自らの意思でゴールを設定して下さい。

「死ぬ時に悔いが残らないように生きる」。このゴールを一つ設定するだけで、死ぬまでに成すべきことが浮かび上がってくるはずです。そして、逆に自分の人生に不要なゴールはスコトーマとなって見えなくなります。

仮想現実を評価する評価軸がないとゴール設定に悩んでしまいます。そこで仮想現実を評価する何らかの視点(評価軸)を持つ必要があります。「悔いのない人生を送るに当たってこの仮想現実は必要か?」と評価するだけで、簡単に取捨選択ができます。どんなゴールでも良いので死ぬまでにやりたいことを50個〜100個くらい上げれば、抽象度の高い自分だけの立派なゴールが出来上がるはずです。(量が多ければ多いほどそれらのゴールを矛盾なく統合するには、大きなゴールで包摂する必要がある。)

自分だけの抽象度の高いゴールが出来上がれば、このゴールをベースに新たなゴールを加えたり、逆に外したりしてゴールを更新していくだけです。

自我の抽象度とスコトーマ

自我の抽象度を上げることでスコトーマを外すことができます。

自我の定義は色々ありますが、ここでは「自我=重要性評価関数」として考えます。

自我の抽象語が上がるというのは悟りの境地(空の論理的理解と体感的理解)に近づくということです。私は自我において抽象度が上がることを「悟る・悟りに近づく」と表現しています。

全宇宙を悟って、悟りの境地に行き着くにはお釈迦様くらいしかできないでしょうが、各抽象度に対して悟ることは誰もがやっていることです。

自我を重要性評価関数とすると、無数の物差し・価値観の集合体と考えることができます。仕事に対する価値観とか、結婚に対する価値観といった様々な物差しが重要度順に並んでいるイメージです。その物差し全てで具体的な状態・事象を評価し、それらを重要度順に並び替えて決断・選択を行います。(図でうまく表現できませんでしたが、それぞれの物差しは重要度に応じた重み付けがされています。)

仕事観について悟るとどうなるかというと、「どの仕事も優劣なく素晴らしい」と考えられるようになります。悟る前はどういう状態かというと、「あの仕事は凄い」「あの仕事は嫌だ」などの評価をして各仕事に対して順位付けしていた状態です。仕事観について悟った後は全ての仕事が同率1位となります。仕事の種類に対して執着がなくなるため、今まで無意識に嫌っていて選択肢に含まれていなかった仕事などが認識できるようになります。これが抽象度を上げることでスコトーマが外れる原理です。

一見悟っているようにも見えますが悟りとは真逆の状態で、単に無関心な状態というのもあります。その場合は逆にスコトーマが生まれます。物差しそのものの重要度(順位)が下がることで「どうでもいい」と感じるようになり仕事そのものが認識に上がらなくなるのです。

自我の抽象度を上げてスコトーマを外せばゴールが見つかるかと言ったらそうではありません。自我の抽象度を上げれば上げるほど煩悩もゴールも少なくなって行きます。自我の抽象度を上げて悟った後は今度は逆に抽象度を下げる必要があります。「自我の抽象度を下げる」とは、「悟った状態から煩悩がある状態、つまり執着を生み出しなんらかの評価軸がある状態に戻す」ということです。抽象度を下げる際に何に価値を感じて執着をするかは自分で決めます。これを「重要性評価関数の書き換え」と言ったり、「仮観」と言ったりします。

ちなみに、「自我の抽象度」の他に「自己の抽象度」もあります。

皮膚の表面から内側の部分を「自己」とみなすのが一般的です。その上で、「情報的な自己」というものがあります。仲間意識と言ってもいいかもしれません。人は自分以外の人間が成功することに喜びを感じたり、逆に自分以外の人間が傷つくと痛みを感じることができます。その範囲は人それぞれで、「家族や身近な人」までならそのような感情の共有が出来るという人もいれば、「全人類」に対して共有できるという人もいます。この感情を共有できる範囲の度合いのことを「自我の抽象度」と区別して私は「自己の抽象度」と呼んでいます。

自己の抽象度を上げると影響度の大きいゴールが生まれやすくなります。

臨場感(確信度)とゴールの固定とアファメーション


「ゴールを設定してもすぐ現実に戻ってしまうため、臨場感(確信度)を上げられるようになりたい。」という方が沢山います。

書籍等では様々な臨場感の上げ方が乗っていますし、私自身もゴールを設定した後は高い臨場感を持つように言っています。しかし、敢えて「臨場感は上げるものではない」と断言します。臨場感とは「上げる」ものではなく、ゴールに向かっていれば勝手に「上がる」ものです。

そもそも最初にゴールを設定した瞬間は、ゴールに対して高い臨場感を持っています。「最初はゴールに向かうモチベーションがあった」という人が多いことからわかるように、高い臨場感のあるゴール設定自体は以外と簡単なのです。多くの人ができないのはその臨場感を維持することです。臨場感の高いゴールが生まれたとしても、コンフォートゾーンの移行が済んでいないと、すぐにホメオスタシスによって現状の臨場感に引き戻されてしまうのです。

「臨場感を上げること」ばかりに着目しがちですが、多くの人が苦戦しているのは「臨場感を下げないこと」なのです。

アファメーションは臨場感を上げる技術ですが、臨場感が下がり切ってしまった後ではあまり有効的ではありません。ゴールが生まれるエネルギーから得られる臨場感に比べれば、アファメーションから得られる臨場感はあまり大きいとは言えません。アファメーションはあくまでも補助であり軌道修正程度に使われるものです。

臨場感が完全にゴールから現状に移行してしまうとせっかく作ったアファメーションが億劫になります。臨場感のあるものが基本的にwant toになってしまうので、現状に臨場感が移ってしまった時点で、そのゴールはもはやゴールとは言えないものになってしまいます。すでにゴールが変わってしまっているのだから、変わる前のゴールのアファメーションをwant toでやりたいと思えるわけがありません。

ゴールは簡単に変化してしまうものです。というよりは常に変化しています。(無常(不変の真理):移り行くことが永遠に変わらぬ真理であるという考え)ゴールを更新することは大事ですが、それはゴールに近づいていくエネルギーを失った時の話です。ゴールに近づいてゴールから引っ張られるエネルギーが少なくなってきた時に初めてゴールの更新が必要になります。ゴールにある程度近付くまでは、ゴールのブレをなるべく抑えるようにしなければいけません。それを私はゴールの固定(=臨場感の維持)と呼んでいます。

久しぶりにアファメーションを唱えたとしても、唱えているときはゴールを達成している時の意識状態になります。しかし一旦唱えるのをやめるとすぐに現実の意識状態に戻ってしまいます。たまにしか唱えることのないアファメーションは、逆に無意識にゴールと現実の境目を作ってしまう弊害を招きます。

ゴールを設定したばかりで、ゴールに高い臨場感を抱いているときは、すでにこの現実はゴールの一部になっています。このとき現実とゴールに境はありません。この状態を正常な状態としてコンフォートゾーンを作り上るのにアファメーションは役立ちます。この状態の臨場感が少しでも下がりそうになったらすぐにアファメーションを唱えるのです。この時のアファメーションは短くても構いません。ゴールにポジティブなセルフトークをアファメーションの代わりにつぶやくだけでゴールの臨場感を維持することが可能です。

この状態を維持しているといつの間にかコンフォートゾーンが出来上がります。コンフォートゾーンが完成しているなら、わざわざアファメーションを唱えなくても無意識が勝手にゴールに向かって進んでくれます。そしてゴールに近づくにつれより臨場感が上がっていきます。ある程度ゴールに近づくと若干方向がずれている場合があります。ずれを感じたときは再度ゴールについてしっかりと記述されたアファメーションを唱えて軌道修正しながらゴールに向かいましょう。ゴールに向かうエネルギーが無くなってきたと思ったらゴールを更新します。新たなゴールに向かっている途中で最初に設定していたゴールは達成されます。

臨場感を維持することは難しいことではありません。臨場感の維持さえできればいずれ現状は変化していきます。ただし、その変化が訪れるまでの間は結構精神的に辛いです。現状が不満だらけになり、この不満から逃れるためにゴールを諦めたくなります。現状に引き戻そうとするホメオスタシスが強烈に働くのです。ですがそういう時こそゴールの臨場感を上げて逆に現実の不満を強めるのです。現実に不満が生まれたということはコンフォートゾーンが移行し始めている証拠です。間違っても不満を取り除くためにコンフォートゾーンを引き戻してはいけません。現状の不満とは正しく現状の外側にゴールが生まれたサインです。「この不満に感じている部分」がゴールの世界とはズレているということを無意識が教えてくれています。この不満を解決する方法を見つけ出せれば現実は動き出します。不満が強まれば強まるほど細胞レベルで無意識が不満を解決する方法を探してくれます。意識はただゴールの臨場感を保つことに全力を注いでいれば良いのです。

体感

ここまでコーチング理論について色々語ってきましたが、一番重要なことは「セルフコーチングは体感で理解する必要がある」ということです。

スポーツと同じで、頭で理解する以上に体で理解することの方が大事です。野球のピッチャーであれば、「特定の場所に決まったボールを投げる」ことを決めた後に「身体」を動かし「ボール」に力を加えます。「ボールの動き」を観察してフィードバックを行い、「身体の動き」を修正して再度「ボール」を投げます。


セルフコーチングの場合は、「なんらかのゴールを達成する」ことを決め、「コーチング技術」を使って「マインド」に変化を加えます。「マインドの動き」を観察してフィードバックを行い、「コーチング技術の使い方」を修正して再度「マインド」に変化を加えます。

セルフコーチングと自己のマインドの観察を繰り返し、フィードバックを行うことで、コーチング理論の通りにマインドのコントロールができるようになります。

マインドの観察にはメタ認知能力が必要です。今自分は何を感じているのか、どうしてそのように感じたのかということを客観的に観察し、セルフコーチングによる影響との関係性を分析することです。

臨場感が上がるとはどういう感じか?今現在どんなホメオスタシスが働いているのか?なぜ今これを認識できているのか?
コーチング理論で用いられている様々な用語を体感を通して認識できていなければ使いこなす(コントロール)することはできません。

コーチング理論自体は非常にシンプルです。

「ゴール(臨場感の高い仮想現実)に近づく行動をとりながら、絶えずその行動結果をフィードバックし、ゴール達成にとって最適な行動をとるように、無意識が勝手に生体をコントロールする。」

これが真実です。後は「ゴール(臨場感の高い仮想現実)とは何か?」を正しく理解するだけで十分です。

過去の体験を思い出してみてください。

どんなゴールを達成したことがあるか?そのゴールはどうやって生まれたのか?その時どうやって高い臨場感を維持していたのか?またこの時どんな感情を抱きながらゴールに向かっていたか?

誰もが過去になんらかのゴールを達成しています。その貴重な体験はどんな知識よりも役立ちます。

すでにセルフコーチングに必要な知恵を持っています。ただ、無数の記憶に埋れて見えずらくなっているだけです。

今この瞬間から成功を確信する。絶対に成功すると決断する。そう決めた瞬間、自分と宇宙の関係性が変化します。この時の自分と宇宙の関係性を維持してください。コンフォートゾーンが築かれるまで臨場感を下げてはいけません。コンフォートゾーンが築かれたのなら我々の体は勝手にゴールの達成に向かって進んでいきます。あとは頃合いを見て次のゴールを探すだけです。

それでは、楽しい人生を送って下さい。この記事を読みきったあなたなら簡単にセルフコーチングができるはずです。