情報には抽象度の階層があるように、ゴールにも階層があります。
抽象度の高いゴールの下に放射状に何段もゴールがぶら下がっている感じです。下に行くほどゴールの抽象度は下がり、ゴール同士に矛盾が生じます。
例えば、「食事制限をして痩せてる自分」というゴールと「美味しいものを沢山食べて幸福を感じている自分」というゴールが同時に存在しているといった感じです。
人間の脳は矛盾状態を嫌い、秩序のある状態を好みます。
矛盾を解消するために一番簡単な方法は、矛盾を生じさせているゴールを切り捨てる(諦める)ことです。洗脳に近い形で権力者に植え付けられたゴールは切り捨てていく必要があるため、ゴールを吟味し取捨選択するのは悪いことではありません。
しかし、ゴールを切り捨てて矛盾を解消するというやり方が、常に正解というわけではありません。他人に植え付けられた間違ったゴールに対しては有効的ですが、自分の中から出てきた真のゴール同士が矛盾を生じさせている場合には別の方法が適しています。こういう場合には、複数の矛盾したゴールの抽象度上げて、それらを包摂できる新しいゴールを設定すべきです。
「食事制限をして痩せてる自分」というゴールと「美味しいものを好きなだけ食べて幸福を感じている自分」というゴールは矛盾していますが、一部抽象度を上げることで矛盾を解消することができます。例えば「食事制限」を「ダイエット」という抽象度まで高めます。「ダイエット」には「食事制限」の他に「運動」や「生活習慣の改善」といった概念も包摂されているため、食事制限せず運動だけで「痩せている自分」というゴールを達成することができたりします。
「食事制限」という抽象度から、一度「ダイエット」という抽象度まで高め、その後「運動」という抽象度に落とすことで、二つのゴールの矛盾を解決することができます。しかしその結果新たに別のゴールと矛盾が生じる場合があります。
例えば「食事制限をして痩せている自分」を「運動をして痩せている自分」に書き換えても「運動をする時間がない」とか「そもそも運動はキツイから嫌だ」といった矛盾が生じます。矛盾の連鎖はどこかで断ち切らなければいけないのですが、それができないと結局現状維持状態に陥ります。現状維持状態とはどちらのゴールにも近づくことなく時間だけが過ぎていく状態です。またはゴールに三歩近づいて三歩戻るといったことを繰り返しているような状態です。
矛盾の連鎖が生まれる度にゴールの抽象度をコントロールして、徐々にゴールの抽象度を上げていくというやり方は、抽象度の低いゴールを達成する方法としては有効的です。
しかし、そのようにして作られるゴールは現状の延長線上に作られるものであって、コーチングで求められるような圧倒的な結果には結びつきにくいです。
そもそも抽象度の低いゴールであればセルフコーチングは不要です。セルフコーチングの目的は「抽象度が高く現状の自分では到底達成不可能なゴールを達成すること」です。
ゴール設定とは単に抽象度の低いゴールの矛盾を解決するためのテクニックではないのです。
抽象度の高いゴールを書き換えると、現在持っている抽象度の低いあらゆるゴールを一掃してしまいます。
抽象度の低い位置にあるゴールの矛盾に目もくれず、いきなり抽象度の高い位置のゴールを書き換えることで正しいゴール設定が可能になります。
ゴールはホメオスタシスを働かせる価値基準のようなものです。抽象度の高い位置にあるゴールが書き変われば、その下にぶら下がっているゴールが書き換わります。例えば抽象度の高い位置にあるゴールが変化した影響で、「痩せている自分」ではなく「太っている自分」というゴールに変化したりします。
正しいゴールとは、「痩せている自分」が「太っている自分」に再設定されたように、勝手に出来上がったゴールです。
意識的に抽象度の高いゴールを書き換えようとして書き換えたものは正しいゴールではありません。意識が介入したゴールは仮のゴールです。仮のゴールを設定した結果、勝手に生み出されたゴールのように、意識を介入させずにゴールを設定するのが理想的です。
心から達成したいと願っているゴールというのは、意識に上がったときにはすでに達成してしまっているものです。
無意識レベルでホメオスタシスが働くゴールを設定するには、ゴールそのものに必要性が内在していなければいけません。
「お金持ちになっている自分」というゴールを達成したいのなら、「このゴールを達成するためにはお金持ちでなければいけない」と無意識レベルで感じてしまうゴールを作ることです。達成したいゴールのさらに一段二段高い抽象度のゴールを設定する必要があるということです。
とはいうものの、抽象度の低いゴールを達成するために意識的に一段二段高い抽象度のゴールを設定したとしても、その抽象度の高いゴールというのは、無理やり作られた偽物のゴールになってしまいます。因果関係が逆転しているため、達成したいゴールに必要性は生まれません。偽物のゴールに必要性が内在したゴールを生み出すことはできないのです。
必要性が生じるゴールというのは、抽象度の高いゴールが設定されたときに偶然生まれるものであって、狙って作るものではありません。
宝くじのようにゴールの必要性は狙って生じさせることはできません。とはいうものの、宝くじは買わなければ当たる可能性は0%ですが、買えばもしかしたら当たるかもしれません。狙ってうまくいくものではないからといって諦めるのではなく、宝くじを手に入れて「もしかしたら当たるかもしれない」という状態を作ることに意味はあります。
狙って特定のゴールに必要性を生じさせることは難しいですが、「もしかしたら達成したいゴールに必要性が生まれるかもしれない」という状態なら作ることは可能です。
その方法はひたすら自我の抽象度を上げることです。自我の抽象度を上げていくと自然と抽象度の高いゴールが生まれます。新たに生まれた抽象度の高いゴールに達成したいと思っていたゴールが包摂されていればそのゴールには必要性が生じます。しかし自我の抽象度を上げていった時に達成したいと思っていたゴールが「やっぱり達成不要なゴールだった」と感じたなら、そのゴールに必要性は生じません。
自我の抽象度を上げていったからといって、必ずしも過去に達成したいと思っていたゴールが包摂され、必要性が生じるわけではないのです。
ですが、狙ってゴールを達成できないからといって、悲観的になることはありません。自我の抽象度を上げた結果、「このゴールは必要のないゴールである」という価値観に変化したのだから、現在の自分にとって過去のゴールはどうでも良いことです。そのため、過去のゴールを達成できなかったことに対して後悔の念を感じることもありません。
自我の抽象度を上げるには、日々入ってくる情報量を増やしたり、今まで取り入れてきた情報とは違う性質の情報を積極的に取り入れたりすることです。知識量が変化すると同時に自我も変化します。自我に矛盾を生じさせるような情報が入ってくると、その矛盾を解消するために自然と自我の抽象度が上がります。
自我の抽象度が上がり、抽象度の高いゴールが設定されると、必要性を持った何らかのゴールが設定されます。また、必要性の生じていなかったゴールに必要性が生まれる場合もあります。必要性が内在しているゴールはスコトーマを外しホメオスタシスを働かせます。その結果、無意識に必要性が内在しているゴールに向かっていく状態になります。そのゴールが意識に上がったときにはすでにそのゴールは達成されているのです。
正しいゴール設定方法についてまとめると以下の通りです。
・ゴールには階層があり、抽象度の高い階層のゴールを設定すると、その下に必要性が内在したゴールが生まれる。ただし、それが望んでいたゴールかどうかはわからない。
・正しいゴールとは、必要性が内在していてそのゴールに向かって無意識がホメオスタシスを働かせる。
・抽象度の高いゴールを設定するには、知識量を増やして自我の抽象度を上げること。
結論、
現状の不満(矛盾)を解消したければ、沢山勉強し、いろんな経験をして自我の抽象度を高めて、抽象度の高いゴールを設定しよう。
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